竜太のテクニカルメモ

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量子もつれを利用したタイムマシンの案

ども,竜太です.

今回はほとんどの方が「できっこねーべ」と思っていると思われる,過去に情報を送るタイムマシンの案をお伝えします. 数式等をほとんど使わない説明ですが,実際にはゴリゴリと量子光学の計算をしないとできない実験なので, 私自身の理解が不足している点も含めた説明になることを予めご了承ください.

説明についてですが,次の流れになります:

  • EPRの論文によって瞬間的に伝わる量子状態があるように思える!
  • しかしそれは非相対論的な量子力学に基づくものであり,相対論的量子力学では光速以下で伝わるような気がする.
  • 実は相対論的な議論をしてもやはり瞬間的に伝わってしまう!
  • 量子もつれを壊さないような操作が存在する!
  • 量子もつれを壊さないような操作を2回繰り返せば遠方との瞬間的な情報通信が行えてしまう.
  • この瞬間情報転送装置を例えば前方に一定速度で運動する長い列車に積み,地上の観測者と目の前を通過したときに光で通信すれば列車の先頭から列車の末尾まで瞬間情報転送装置で転送すれば 目の前を通過する地上の観測者は過去の情報を受け取る.
  • この場合,相対論的な同時の定義により,瞬間的に伝わるは過去に伝わることを意味する.
  • 情報の送り手は送る前に送る情報を受け取ってしまう!
  • タイムパラドックスが生じる!

それではもう少し詳しく見ていきましょう:

EPRパラドックスの論文は何を意味するか?

1935年アインシュタインポドルスキ―,ローゼンの3人は『物理的実在の量子力学的記述は完全であるといえるか?』という論文を発表しました. この論文は3人の頭文字を取ってEPRパラドックスの論文などと呼ばれています.

論文の主旨は次の通りです. もつれあった量子の片方を測定すると瞬間的に空間的に離れた他方の量子にその影響が伝わってしまう. 一方,相対論によればどんな相互作用も光速以下で伝わらなければならないのでこれは矛盾だ!

というものです.ここですでにタイムマシンのヒントが十分に見え隠れしているのが読み取れるかもしれませんが,いくつか問題があります. 簡単のため真空中にガンマ線を当てるなどして電子・陽電子ペアを生成したとしましょう.全体としての角運動量はゼロですので, 電子が上向きのスピンなら陽電子は下向きのスピンになります.ただし,測定するまではどちらのスピンも定まっておらず,単に全体としてスピンゼロが分かっているだけです. ここで十分遠方に2つの粒子が離れたところで,一方の粒子のスピンを測定したとしましょう.するともし測定した電子のスピンが下向きだったら自動的に陽電子のスピンは 上向きになります.しかも瞬間的にそうなります.

―――よっしゃー超光速通信が完成したぞー!!! ・・・と言いたいところですが,まだ問題があります. スピンの向きは測定するたんびにばらばらでどっちになるか事前に分かりません.そのため瞬間的に伝わったとしても何も信号を送れません. また,EPRの論文は非相対論的量子力学に基づいています.非相対論的なニュートン力学で普通に超光速があることを考えると, 相対論を考慮しないのはまずそうです.実際はどうなのでしょうか?

実は相対論的に議論をしてももつれは瞬間的に伝わってしまう.

粒子描像では無理ですが,相対論的場の量子論で考えると,二つの運動量固有状態の重ね合わせは十分遠方で瞬間的に小さな位相の変化を生みます. 例えば実部が\cos x\cos 2xの波の重ね合わせは普通に十分遠方で測定できる波の重ね合わせ状態になります. 詳しい議論は他にゆずるとして,「波だと十分遠方で瞬間的に重ね合わせの効果が測定できる」のだなと理解してください.

実は量子もつれを壊さない操作が可能である

先ほどの電子・陽電子ペアの実験の場合,片方を測定すると瞬間的に他方の状態が変化することは分かりましたが,全くランダムであり意味のある情報を送れませんでした. しかし実際には3者間のもつれを利用することにより,もつれを壊さずに量子状態だけを変化させることができます.たとえば送りたい情報に合わせて量子状態を0にしたり1にしたりができます. このとき,もつれを壊さないこともできますので,送りたい情報を瞬間的に送れるわけです.

A地点からB地点への3者のもつれとB地点からA地点への3者のもつれを利用すればA地点の送った情報を送る前にA地点で受け取れるというパラドックスが生じる!?

実際には地上のA地点B地点のほかに列車上の先頭A'地点,末尾のB'地点を用意し,この列車は一定速度vローレンツ収縮で重なり合ったA地点B地点と目視で通信できるものとします. このとき地上のA地点から情報Iを目の前を通り過ぎる列車の先頭と"そのまま"時間差ほぼゼロで情報の受け渡しができるので,この情報を先ほど作った瞬間情報転送装置で末尾のB'地点へ送り, それをそのまま目の前のB地点へ"そのまま"情報を送り,それをまた瞬間情報転送装置でA地点に送るとローレンツ変換により,過去に情報が送られます. この時点でタイムパラドックスが生じます.

「あれ?同時に返したんだから,ほぼ同時にA地点に戻るだけじゃないの?」

と思われた方がいらっしゃるでしょうが,そういう方は特殊相対論がまだ良く分かっておりません. いずれまた書こうと思うのですが,特殊相対論において十分遠方に瞬間的に伝わると,それは慣性系の乗り換えにより,過去に情報が送られたことになるのです. したがってそれを2回瞬間情報転送装置でA地点に送り返すとA地点の過去に情報が送られたことになってしまうのです.

・・・疑い深い方は何やらどこかしら間違いがあるように思われるかもしませんが,瞬間的に情報が伝わると本当にこのようなことが起こります.

これが今回ご説明した,情報を過去に送るタイムマシンです.

このタイムマシンらしきものが投げかけるのは一体なにか?

この結果は一体何を意味するのでしょうか? タイムマシンが作れるということでしょうか?その可能性も少しだけありますね. でも恐らく,実際に起こるのはそうではなくて新しい物理学を切り開くことかもしれません. 何か未知の機構によってやはりタイムパラドックスは起こらないという可能性の方が強いと思います. その場合でも新しい物理学を切り開く可能性はあると思ってます.

最後に数式が分かる方のために強くもつれた状態の例を数式でご紹介します. \begin{align} |\psi\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}}|0\rangle _A|0\rangle _B + \frac{1}{\sqrt{2}}|1\rangle _A|1\rangle _B \end{align} 上で例えば上手く作った光子の偏光を縦偏光が0,横偏光が1などとし,A地点の光子の状態をラベルA,B地点の光子の状態をラベルBとしておくと, 容易に分かる通り,A地点の光子の偏光が縦偏光ならB地点でも縦偏光になりますので強くもつれていることがわかります.