竜太のテクニカルメモ

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光子数の重ね合わせ状態

竜太です.

光回路についていくつか書いたのですが,光子が分裂できないので分かりにくかったことと思います. 本当は量子力学でいう「量子は粒の性質と波の性質があり・・・」の意味はざっくり言って

  • ほとんどの状況は波で考える.
  • 検出器などで観測する際などどうしても必要な時だけ粒子で考える

というのが肝なのですが,私が言っても説得力ないと思うので講談社ブルーバックス古澤明著『量子もつれとは何か』 の132ページの最後の節を引用します.

「この章での教訓は、量子光学ひいては量子力学を理解しようとする場合、ほとんどのことは波動像で理解できるということである。 粒子像で考えなければならないのは、量子のエネルギーは飛び飛びの値しか取らないという条件を使わざるを得ないときに限られるということである。 この感覚を身につけられたなら、読者は「量子力学のプロ」の称号を得たのに等しい。」

と書かれてます.ほとんどは波動像で良いということですね.

さて,それでも今回は光子描像でないと考えるのが難しいという方のために光子数の重ね合わせ状態の量子もつれ状態を1つ例示します. 次のような回路です:

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光子数のテンソル積状態
上の図の回路では今まで考えてきた光の偏光方向は直交する状態としては考えず,光子数からなる空間を直交基底として選んでいます. つまり,光子数がn個の状態を|n\rangleとしています.このとき当然光子数がゼロ個の状態は|0\rangleと書かれます.

いま,コヒーレント光源から出た強い光,つまり多数の光子が出ていて扱いにくい状態の光を光子数を減衰する透明度の低い板を通過させ, 同時に存在するのが最大でも光子数が1個の状態の光を作ります. これをハーフミラーに通すと\dfrac{1}{2}の確率で反射または通過します. 通過側のラベルをA,反射側のラベルをBとすると,光子は基本的に分裂できませんので反射すればB側で光子1個を観測するので|1\rangle _Bを観測し, 通過側では必ず光子数がゼロ個なので|0\rangle _Aを観測するので全体としてはテンソル|0\rangle _A\otimes |1\rangle _Bを観測します. 逆にもし光子が通過すれば先ほどとは逆に通過側が|1\rangle_A,反射側が|0\rangle_Bになりますので全体としては|1\rangle_A\otimes |0\rangle_Bとなります. これを全体で考えると位相と振幅を合わせて\frac{1}{\sqrt{2}}\left(|0\rangle _A\otimes |1\rangle _B + |1\rangle_A\otimes |0\rangle_B\right) になります.これはA側で|0\rangle_Aを観測すればB側で|1\rangle_Bを必ず観測し,逆にA側で|1\rangle_Aを観測すればB側では必ず|0\rangle_Bを 観測しますので,これでも立派な強相関関係=量子もつれ関係となっています.

もつれ関係の最大の特徴は観測するまで特定の観測量が定まってないことが挙げられます. この例ですと,A側とB側で観測する光子数が観測する瞬間まで定まっておりません. 一方,例えば仮にA側で光子数が0,つまり|0\rangle_Aを観測するとその瞬間にB側では光子数が1,つまり|1\rangle_Bが確定します. この話を初めて聞いた方ならこう思うかもしれません. 「光子が反射したかどうかは光子がハーフミラーに衝突した直後に決まるから,観測は関係ないのではないか?」 詳しい話は他書にゆずりますが,量子力学はそうではないことを告げます. これはどんなに距離が離れていても瞬間的に起こるため,ここに超光速通信のヒントが隠されています.

さて,ここで次のような変形を考えましょう: \begin{align} & \frac{1}{2}\left(|0\rangle_A \otimes |1\rangle_B + |1\rangle_A\otimes |0\rangle_B\right) \\ &= \frac{1}{2}\Bigg[(|0\rangle_A + |1\rangle_A)\otimes(|1\rangle_B + |0\rangle_B) + (|0\rangle_A - |1\rangle_A)\otimes(|1\rangle_B - |0\rangle_B)\Bigg] \end{align} この式変形は単にテンソル積の計算規則に従って展開すれば正しいことが確かめられます,重要なのはその意味です. 下の式では例えばA側で|0\rangle_A + |1\rangle_Aという重ね合わせ状態が観測されればB側でも|0\rangle_B + |1\rangle_Bあるいは |1\rangle_B+ |0\rangle_Bが観測され,A側で|0\rangle_A - |1\rangle_Aが観測されればB側では|0\rangle_B - |1\rangle_B\pi回転させた |1\rangle_B - |0\rangle_Bが観測されるということを意味します.(ただし位相合わせをしていることを忘れてはいけない!) これは光子が1個と0個の状態の和と差の重ね合わせ状態が観測されることを意味します. 具体的には観測のたびに光子数が\dfrac{1}{2}の確率でゼロか1が観測されるというものです. ただし,|1\rangle_B+ |0\rangle_B|1\rangle_B - |0\rangle_Bは異なる状態です. というのも,数学的には明らかに区別できるこの状態は零点振動を含んでいる|0\rangle_Bの影響を足すか引くかの違いで波の位相に差ができるからです. それでもどちらの状態も光子数では半々の確率で0か1です.

この状態は興味深いのでまたいずれお話しすることになるかもしれません.

さて,粒子描像で説明を開始したこの光子のテンソル積状態ですが,最終的には光子がゼロ個と1個の重ね合わせ状態という出力が得られました. もちろん,観測装置が「ちゃちな」光子数のみしか検出できない場合は単純に粒子数がカウントされるだけですが,この結果をよく見ればわかる通り, 本質的には粒子数が確定している状態ではないのが本質的です.ただ,観測装置が20世紀型の古い測定方法のみの場合,粒子性が強く出てしまうだけなのです.

今回は波動像がより重要である点に絞って光子の粒子性からスタートして解説を試みました.

楽しんで頂けたら幸いです^^


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