竜太のテクニカルメモ

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量子もつれを使用したマルチビット瞬間情報転送装置の案

竜太です.

今回は私が考案した,任意ビット長の情報が送れる瞬間情報転送装置の詳細をご紹介します. 元々私の技術的な知識の未熟さもあるのでそんなに複雑な機械にはなっておりませんので,皆さんに構造を理解して楽しんで頂ければと思っています.

2光子のテンソル積状態はハーフミラー一枚で構築できる!

2光子のテンソル積状態
上の図を見てください. 左右に光学回路が一つずつあります. まずは左側から見てみましょう. 左の図では二つの光源から出た光をそれぞれ水平偏光板に通過させて水平偏光にしてあります. 水平偏光状態を|0\rangleというケットベクトルで表すと,出口A,Bのそれぞれで状態|0\rangle_Aおよび|0\rangle_Bとなります. このとき,A,Bそれぞれを一緒にした状態はテンソル積で|0\rangle_A\otimes |0\rangle_Bとなります.この状態はもちろん2光子状態です.

次に右の図を見てください.今度は光源は一つだけで下から発射した光を水平偏光板に通して水平偏光にしてある点は一緒ですが途中に45^{\circ}に傾けたハーフミラーが設置されているため, 光子一個で見ると\frac{1}{2}の確率で反射または通過します.ただし通過はもちろん,反射光も偏光方向に変わりはありませんので出口A,Bでの出射光はそれぞれ \frac{1}{\sqrt{2}}|0\rangle_A,\frac{1}{\sqrt{2}}|0\rangle_Bになりますので全体としてはテンソル積で \begin{align} \frac{1}{\sqrt{2}}|0\rangle_A\otimes\frac{1}{\sqrt{2}}|0\rangle_B &= \frac{1}{2}|0\rangle_A\otimes |0\rangle_B \end{align} という状態になります.ここで注意してみてもらいたいのが,今回は1光子なので当然全体に\frac{1}{2}が掛ってはいますが,確率振幅的には半分であるものの 2光子状態が現れているということです.

テンソル積状態で表されたもつれ

次に下の図を見てください:

テンソル積状態で表されたもつれ
左の図は先ほどご紹介した水平偏光のテンソル積状態です. この状態は\frac{1}{2}|0\rangle_A\otimes |0\rangle_Bで表されました. 一方垂直偏光状態を|1\rangleで表すと,右の図のように水平偏光板を90^{\circ}回して垂直偏光だけ通すようにすると\frac{1}{2}|1\rangle_A\otimes |1\rangle_Bという状態が得られます. ここまでは当たり前なのですが,ここでもし最初の偏光板が水平偏光を通す状態と垂直偏光を通す状態の量子力学的重ね合わせ状態だったらどうなるでしょうか? 答えはベル状態(の一種)である\frac{1}{2}\left(|0\rangle_A\otimes |0\rangle_B + |1\rangle_A\otimes |1\rangle_B\right)という2光子の強相関関係が得られます. つまり,最も強いもつれが得られます.

これは2光子状態と呼べるのか?

左右どちらから光子が来たか判別する回路
上の図を見てください. 左側の図は片側に光子検出器を付けた回路です. ハーフミラーで\frac{1}{2}の確率で左側から光子が入り,\frac{1}{2}の確率で右側から光子が入るようにします. 上のメーターは左から光子が入ると左に振れ,右から光子が入ると右に振れるようになってます. このとき,光子一発を打ち出す思考実験をしましょう. 実際の実験では光子一発だけ発射するのは大変困難ですから,最初の測定時にメーターが止まってしまうように細工しておきます. 左の図では片側に光子検出器を付けていますので,光子がどちらを通過したか分かります. この場合,左側の光子検出器を通過したなら,左側に振れ,通過しなかったら右側に振れます. これは当たり前ですね^^

一方,光子検出器を付けなかったら入口の光子検出器を通ったにもかかわらず,針は右にも左にも触れません. 粒子描像では必ずどちらか片方に振れるはずにもかかわらずです. これはこの測定装置の動作が,重ね合わせ状態\frac{1}{\sqrt{2}}(|\text{左}\rangle + |\text{右}\rangle )になっていることを測定しているという ことを表していると考えられます.

さてここで水平偏光の図である左の図の出口A付近に垂直偏光しか通さないように縦に水平偏光板を置いてみましょう.

垂直偏光板を出口A方向に置いた場合
垂直偏光だけを通す演算子は垂直偏光だけ何もしない演算子なので恒等演算子\hat{1} = |0\rangle_A{}_A\langle 0| + |1\rangle_A{}_A\langle 1| のうちの |1\rangle_A{}_A\langle 1|だけ 残したものになります.そこで出口A側に垂直方向に回転させた水平偏光板を設置したことを想定してテンソル積状態\frac{1}{2}|0\rangle_A\otimes |0\rangle_Bに作用させてみましょう: すると, \begin{align} |1\rangle_A{}_A\langle 1|\left[\frac{1}{2}|0\rangle_A\otimes |0\rangle_B\right] &= \frac{1}{2}|1\rangle_A{}_A\langle 1|0\rangle_A\otimes |0\rangle_B \\ &= \frac{1}{2}\left[|1\rangle_A\times 0\right]\otimes |0\rangle_B \\ &= 0 \end{align} となりテンソル積状態は消滅してしまいました.

・・・しかし,よく考えてみてください.出口A方向に垂直偏光だけ通す偏光板を置いたので入射光が水平偏光であることを考えると出口A側で出力がないのは当然ですが, 依然として出口B側では\frac{1}{2}の確率で水平偏光の光子が観測されるのではないでしょうか? それでは何故テンソル積状態は消滅してしまったのでしょうか? 実はその解答のヒントは上の式変形にあります. 上の式変形で試しにゼロになる項の先頭にゼロを付けて明示的に表してみましょう: \begin{align} |1\rangle_A{}_A\langle 1|\left[\frac{1}{2}|0\rangle_A\otimes |0\rangle_B\right] &= \frac{1}{2}|1\rangle_A{}_A\langle 1|0\rangle_A\otimes |0\rangle_B \\ &= \frac{1}{2}\left[|1\rangle_A\times 0\right]\otimes |0\rangle_B \\ &= 0|1\rangle_A\otimes |0\rangle_B \end{align} すると何故か0|1\rangle_Aという項が出てきました.これは一体何を意味するのでしょうか? 実はこの部分は垂直に回転させた水平偏光板を通過した光子の状態を表しています. もしこの偏光板を通過できていれば間違いなく光子の状態は振幅を除いて|1\rangle_Aになっているはずですが, 今通過できる確率はゼロですので0|1\rangle_Aになってしまったというわけです. 正確には次の計算のようにするとイメージがつかめるでしょう: \begin{align} |1\rangle_A{}_A\langle 1|\left[\frac{1}{\sqrt{2}}|0\rangle_A\otimes \frac{1}{\sqrt{2}}|0\rangle_B\right] &= \frac{1}{\sqrt{2}}|1\rangle_A{}_A\langle 1|0\rangle_A\otimes \frac{1}{\sqrt{2}}|0\rangle_B \\ &= 0|1\rangle_A\otimes \frac{1}{\sqrt{2}}|0\rangle_B \end{align} ポイントはテンソル積状態を観測する装置では出口B側のみの出力を測定することはできないということです.

重ね合わせ状態を利用してアリスからボブへ1ビット情報を送る

それではいよいよ情報を瞬間的に転送してみましょう. 今回,情報の送信者アリスは1ビットの情報"1"をボブ側へ瞬間的に送信したいと思ってることにしましょう. 下がその回路図になります:

マルチビット瞬間情報転送装置回路図
上の図で光源として単色なコヒーレント光源としてレーザーを使用し,45^{\circ}に傾けた偏光板を通して水平偏光と垂直偏光が同じ重みで重なり合った状態を作ります. 次にハーフミラーでこの光子の波動関数の経路を二つに分けて,アリス側に送る光子とボブ側に送る光子に分けます. ただし,反射光はハーフミラーで反射すると必ず\dfrac{\lambda}{4}遅れが出ますので,通過側に屈折率の高い透明板を置いて通過側も\dfrac{\lambda}{4}遅れが出るようにして位相合わせを行います. さて,いま-\dfrac{\lambda}{4}長板を通過した通過光からアリスまでの距離が大変長く,Lメートル離れていることにします. このときボブ側も同じ距離だけハーフミラーから離れているものとします. さて,2つの光子が仮に同時にハーフミラーからアリス側とボブ側へ旅立った場合,位相合わせをしていますので同時にアリスとボブに光子は届くことになります. もちろん光子がL進むとき光子の伝わる速さは光速cになっているのは明らかです. しかし,ここでアリス側に縦にした偏光板が置いてあったとしましょう. 縦偏光板をアリス側に向かって旅立った光子の重ね合わせ状態が通過するとき,もしアリスが光検出器などで観測行為を行わなかったら, 縦偏光板を通過した光子の状態はテンソル積状態\frac{1}{2}\left( |0\rangle_A\otimes |0\rangle_B  + |1\rangle_A\otimes |1\rangle_B\right) のうち 後者に瞬間的に(実際には偏光板とのごくごくわずかな相互作用時間だけかかるが)なってしまうため,ボブ側では振幅を除いて瞬間的に|1\rangle_Bを観測します. 疑り深い読者は「ボブ側は確率的にしか|1\rangle_Bを観測できないんじゃないの?」と思われるかと思いますが,この回路はあたかも電流のようにもつれた光子を多数送り出せますので実は必ず|1\rangle_B状態を観測できます.

ここで再び疑り深い読者は「そんなことしたら,今度は|0\rangle_B状態のときに|1\rangle_Bを観測してしまうのではないか?」と思われるかもしれませんが, アリス側で0を送信する状態のときは縦にした偏光板を横にしますので,その瞬間ボブ側の光電管の手前の縦にした偏光板によって遮られてしまうため, 瞬間的に光電管の出力がなくなってしまいます.

こうして光子が伝わる速さは光速なものの,いったん光子が届いてしまえばアリス側の偏光板を縦にするか横にするかに応じて瞬間的にボブ側で信号あり(=1), 信号なし(=0)が伝わることが分かりました.

おめでとう!

実用的な瞬間情報転送装置は作れるか?

この回路でボトルネックとなるのは回路自体の問題というより,アリス側の偏光板の向きを変える速さです. これを例えば二枚の縦横に置いた液晶偏光シャッターを交互に切り替える方式にすれば恐らく毎秒100ビットぐらいは転送できそうです. 液晶偏光シャッターは安価ですのでこれは有難いです.

しかし,火星からの映像をリアルタイムで送るとなるとこの転送速度はたとえ瞬間的に伝わっても遅すぎます. 現在は,やや高いですがフェムト秒で切り替えられる光シャッターも出ていますので,これを使用すれば100メガビットの転送も可能かもしれません. そうすれば火星の探査機をあたかもラジコンでも操作するように遅延なく操作できる日が来るかもしれません.

そして,タイムマシンもできるかも???

ここまで読んでくださって有難うございます. 何か間違い等ございましたら,ご報告いただけると幸いです^^


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