タイムマシンのパラドックスで有名なものの一つに『親殺しのパラドックス』があります.
これはご存じない方のためにご説明すると, タイムマシンを持っている主人公がタイムマシンに乗って過去に戻り,自分の生まれる前の母親に会って 殺してしまった場合,自分の生まれた理由がなくなってしまうというものです.自分が生まれたということは 母親が生んだということですが,その母親が自分を生む前に死んでいたら矛盾してしまうというわけです.
この矛盾は実はタイムマシンが作れた場合でも回避することは可能かもしれませんが,時間旅行者の 自由な行動が制限されるなどが考えられます.代表的な考え方として,
- 自分の親を殺してしまうとその世界は別のパラレルワールドであり,パラレルワールドの親が死んだだけなので 時間旅行者の自分には直接関係がない. や,
- 何らかの理由により,どうやっても自分の親を殺すことができない.この場合殺せたと思ったら別人を殺してた. などです.
自分が自由に行動できそうなことを考えると,最初のパラレルワールド説の方が,有望そうですが, どちらも『仮にタイムマシンができたとした場合』についての話に過ぎず,空想的仮説の域を出ません. また,そもそも大きな物体を過去に持ってくるタイムマシンは情報だけを過去に持ってくるタイムマシンより, 実現のハードルはずっと高くなると考えられます.
私は,常識的な理由により,タイムマシンの製造は困難か不可能だろうと考えているのですが, 思考実験とタイムマシンを作りたいという強い動機が研究を促進する可能性については十分 考慮すべきと考えており,そんな理由だと,実際に実験可能なタイムマシンのアイデア(次回書く) の場合に,実験的に殺人よりもっと穏当なタイムパラドックスを生じさせる実験が必要と考えます.
そこで『親殺し』の穏当なバージョンの実験方法を考えてみました. 今回思考実験で使用するタイムマシンは情報だけ過去に送るタイプのタイムマシンです. また,タイムマシンが稼働するより前の時点までは情報を過去に送信できないものと仮定します. このとき,一時間後の未来から過去に向かってメールのようなものを送信することを想定します. 一時間後の未来から現在に送信するメールは次の通りです.
「やあ,1時間前の私.このメールを見ているということは君から見て1時間後の私は君にこのメールを送ったということになる. でももし君がタイムパラドックスに興味があるなら絶対にこの1時間の間にこのようなメールを送らないでほしいんだ. 君がもしこのメール通りにメールを送らなければ,一体君は誰からメールを貰ったんだろうね.」
ここでタイムマシンを稼働して,順当に(!?)"メールを受け取らなかった"ときには,1時間後にこの研究者は 上のメールを自分に送ることにします.すると上のメールを受け取った場合はメールを送信せず, 上のメールを受け取らなかった場合はメールを送信しているので受信しているはずとなり,どちらの場合でも タイムパラドックスが生じます.
以上が,タイムパラドックスを引き起こす,『親殺しのパラドックス』の穏当な別バージョンになります. これは情報だけを過去に送る実用的なタイムマシンができた時,まず試してみて何が起こるか実験すべき問題です. 情報だけを過去に送る実用的なタイムマシンの構想については次回述べます^^
くれぐれも誤解してほしくないのは私が「タイムマシンは作れる!」と主張しているわけではないという点です. あくまでも可能性の話です.ただしもし作れる場合,私の案だと人類の手で作れる可能性があり, カーブラックホールを利用して・・・とかよりずっと実用的になるかもしれません.
楽しみにしてね^^